前回(その1)テレワーク勤務下で、課題業務(非定型業務)をどのように進めていけば良いか、基本的な考え方をお伝えして来ました。今回は、具体的にコミュニケーションツールを使って課題業務をどのように進めていくかということをお伝えしていきたく思います。
まずは、テレワーク下で実際に上司と部下の間でどのようなコミュニケーション上の課題が生じているのか、以下のテレワークに関する調査結果からその実態を把握していきたいと思います。
テレワーク勤務で不安に思うこと
※出典:あしたのチーム『テレワークと人事評価に関する調査(2020年4月実施)』
管理職編
管理職が部下に対する不安として感じている点のうち、「仕事をサボっているのでは」/「隠れ残業しているのでは」という猜疑心から生じる不安に関しては除外して考えた場合、
- 生産性が下がっているのでは?
- 報連相すべき時にできないのではないか?
- 仕事ぶりが見えない期間の人事評価をしにくいこと
- 適切な指導ができず人材育成ができなくなりそう…
と云った問題認識があり、その不安を払拭させるための対策が早急に為される必要がありそうです。
一般社員編
一方、指示を受ける一般社員の側からすると「オフィスより仕事がはかどらない」「残業申請がしにくい」といった本人が時間管理意識面から解決しなければならない課題を除外すると
- 上司・同僚・部下に相談しにくいこと
- 仕事ぶりを評価してもらいにくいのではないかという不安
- 適切な指導が受けられず成長機会が少なくなりそう…
と云った問題認識があり、上司の抱える不安の裏返し的な要素も多分にあり、双方の課題を同時に解決する対策が必要になってくることがわかります。
(今回、緑色で表示をした「健康管理」問題はメンタルストレスも含め、今後大きな問題になってくることが予想されますが、現時点では定期的なzoomミーティングの開催で十分対応可能なものとして、今回は特に触れません。)
では、なんでこのような不安が起こってしまうのか原因を考えると、実はこれまでの仕事の進め方自体に問題があったことを認めざるを得ません。
それは、
- 業務が発生した時点で、業務全体をどのように進めていけば良いのか業務設計をしてこなかった
- 何か問題が生じたら、身近な所(オフィス内)にいる上司に相談できるという甘えの発想があった
- 業務の内容を口頭で伝えれば「阿吽の呼吸」で相手に100%正しく伝わると信じ、アウトプットイメージを共有するという習慣がなかった
という業務遂行上の悪しき習慣が、当たり前のものとして正されることがなかったからなのです。
実際に、例えば住宅建築の会社であればお客様からのご依頼があったら、お客様の声にキチンと耳を傾け、設計図面・完成予定イメージを提示し、どんな工期でどんな作りにしていくのかをお客様にお伝えしていくのは、極めて当たり前のことなのですが、こと間接部門など同じ会社内で行われているという甘え、そういった「正しい仕事の進め方」が存在することさえ知らなかったというのが、こと「ホワイトカラー」と呼ばれる事務系の現場の生産性が改善されてこなかった大きな理由だったのではないでしょうか?
テレワークでもコミュニケーション向上により生産性向上を実現するTBシート
そこで、今回ご紹介させていただくのが1992年に㈱日本LCAという国内経営コンサルティング会社が販売開始したDIPSという『ホワイトカラーの生産性向上システム』の中心的な考え方となるTBシートというものです。
私自身が今から約25年前に経営コンサルタント事務所を開業した際に、当時フランチャイジーとして加盟していたのがこの日本LCAという会社で、1990年代後半から2000年代前半にかけて約10年ほどは、バブル崩壊後で危機的状況にあった国内産業界に於いて、劇的な生産性向上をもたらす経営手法として取り上げられ、私自身も開業当初10年くらいはこのDIPSという手法の普及にも随分貢献させていただきました。
話は横道に逸れてしまいましたが、実際にTBシートを活用した事例がこちらになります。経営コンサルタントとして独立した後に作成したものは守秘義務契約があり、ここに掲載できませんのでかつて営業マンとして活動していた際に記入したものを掲載させていただきます。こういった形で人様にお見せすることなど考えていなかったので乱筆乱文はご容赦ください。
システム営業マンとして半年くらい経った時に、クライアント企業様から本社移転をするのでコンピュータの移設をして欲しいというご依頼いただいた際に、1か月後に迫った移転をどのように進めていくのかを考え、関係各氏に対して、発生業務と遂行スケジュールに関して、TBシートを30~40分かけて記入・配布し、課題点・懸案事項等をその場でアドバイスをいただくことで、無事移設作業を完遂した時の事例になります。
このTBシートに記載する内容は、①発生した業務の内容 ②その目的 ③業務の終わりの姿(ゴール)④最終提出先 ⑤最終提出納期 ⑥やるべき業務 ⑦活動対象 ⑧活動方法 ⑨スケジュール ⑩計画工数 ⑪その他懸案事項と云ったもので、記入する時に上手に洗い出しをしてゆくことが必要になってきます。
このように、業務を受けた者が、どのような業務をいつまでに誰に対して行っていくのかといった「業務設計図」を描き、そのシートをもとに関係者から意見を出していただき、ゴールまでどのように進めばいいのかを関係者と情報共有をしてしまうことで、業務遂行責任者としての自分と依頼者である上司・クライアント等と頭の中で同じものをイメージしながら仕事を進められるので、業務進捗確認も容易に行えるのです。
いかがでしょうか?
前述の同じ職場内の管理職の方と指示を受けた一般社員の間で、業務依頼や課題業務が発生した際に、発生業務に対してこういった業務設計をキチンとした上で『業務の受発注をする』という習慣が職場内に定着すれば、業務の進捗管理などにヤキモキする必要もなくなってくるのではないでしょうか?
もっと平たく言えば、新入社員研修の際に上司から指示を受ける際のポイントとして ①メモをとる ②相手が自分に期待していることを明確にする ③わからないことは質問する ④復唱する ということを学んだことと思いますが、その発展形という風に捉えていただければ良いかと思います。
そして、このシートを記入することで依頼を受けた部下は、何のためにこの仕事に取り組むのか意義を理解して主体的に取り組むことから「やらされ仕事」ではなく「自分が積極的にイニシアチブをとって取り組む仕事」となり、モチベーションは大きく向上し、業務遂行能力がグングン伸びるということをこれまで20年以上コンサルティングの現場で活用しながら日々実感しています。
バックオフィスとなる間接部門のルーチンワーク(定型業務)は、100%出来て当たり前のことで、業務遂行の上でのQ(業務品質)C(投入コスト)D(納期)を落とす事はあってはなりません。その100%を維持しながら、いかにQCDを引き上げていくことができるかが本来の評価対象であり、昇給の際の基本原則である「自分たちの昇給原資は自分たちで確保する」ということを間接部門で実現するためには、このTBシートのような業務設計書ベースで業務改善の起案・実現を管理し、具体的な人事評価の対象にしていくことが必要になるのではないでしょうか?
考え方はなるほどと理解はできるのですが、実際に実行してみると周囲からの理解不足や巧く業務分解ができないなど様々な課題が生じてきてしまうもので個人でこれを実行していくことは非常に難しいことはこれまで実感してきました。
今回のような「在宅勤務」が勤務条件として課せられたような状況を逆手に捉えて、職場全体で生産性向上に取り組むために全社で運動化することを検討してみてはいかがでしょうか?
そして、こういった職場全体の業務改善に関する全社的な取り組みの成果を社員に適正に利益還元する仕組みとして、どんなにシンプルな形であってもいいので適正運用が担保される人事評価制度を同時に導入されることで、生産性向上運動が常態化する職場が広がってゆくことを願っております。
個々人に対して、具体的にサポートすることはできませんが、職場全体でテレワーク推進に対して、どのように進めていけば良いかといったご相談には対応も可能ですので、ご希望がございましたらお問い合わせいただければと思います。